このサイトは「給与天引き法」の実現をめざす社会運動のサイトです。
◆給与天引き法
〜不当徴収の阻止〜
補足 ※このページの読了時間はおよそ6分です。
このページでは以下のことについて説明します。
■「天引き」の意味
■天引きの事例
■天引きの危険性
■不当な天引きの背景
■労働基準法第24条の改正案
「天引き」の意味
以下はここで言う「天引き」という言葉の意味の説明です。
「天引き」とは、会社等の雇用組織(使用者)が、労働契約に基づいて労働者に支払う給与等(ボーナスや手当を含む)から、何らかの名目で、その分の金額を差し引くこと。
名目は次の3つに分類できる。
@法令で定められているもの:「所得税」「住民税」「厚生年金保険料」など。
A労使協定で定められているもの:「労働組合費」など。
B経営者が勝手に設けているもの:「ノルマ未達成のペナルティ」など。
法令で定められているもの以外の天引きは、ほとんどの場合、労働者からの収奪であり、不当である。
天引きの事例
以下は天引きの事例です。ネット上の天引きに関する記事から集めたものです。
●所得税
●住民税
●厚生年金保険料
●健康保険料
●介護保険料
●雇用保険料
●裁判所による仮差押え, 差押え
●財形貯蓄
●住宅等融資返済金
●貸付金
●社内預金
●共済会費
●中小企業退職金共済
●民間の保険料
●労働組合費
●会社内サークルの会費
●社員旅行積立金
●親睦会費
●互助会費
●義援金
●労務用物資の代金
●営業先へ配る広報誌, カレンダー, お菓子などの費用
●商品の説明に必要な書類の印刷費
●制服代
●制服のレンタル費
●研修代
●教育費
●福利厚生施設の利用代金
●社宅費, 寮費
●駐車場代
●社員食堂の飲食料金
●飲食店におけるまかない料理代
●職場にある売店での購入代金
●給料振込の手数料
●損害賠償金
●備品の弁償金
●罰金
●ノルマ未達成のペナルティ
●仕事ぶりに対するペナルティ
●「保険料」という名目で、使途不明のもの
●「講習料金」という名目で、使途不明のもの
●「設備使用料」という名目で、使途不明のもの
●「環境向上費」という名目で、使途不明のもの
天引きの危険性
天引きは、労働者の収入を目減りさせるだけではなく、次のような問題もはらんでいます。
●天引きが人件費の削減のために悪用され、労働者の給与が、少額の目減りではなく、大幅に減少する。
●役員と組合が癒着し、天引きが役員と組合幹部の利得のために悪用される。
●求人票において、高い給料を提示しつつ、天引き額を隠すという手口で、天引きが求職者を騙すために悪用される。
不当な天引きの背景
ここでは不当な天引きがまかり通る事情について説明します。
【1.労働基準法第24条のただし書】
労働基準法第24条のただし書の後半部分に、次の文章があります。
「法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」
この文章のために、次の手続きを踏むことで、多くの天引きがまかり通っています。
@労使協定を締結する。
A就業規則に記載する。
B雇用契約書または労働条件通知書に記載する。
C労働者の「合意」を得る。
【2.拒否の困難さ】
上記の手続きにおいて、一応、労働者の「合意」が必要ということになってはいますが、一般労働者がこの「合意」を拒否することは困難です。一般労働者は、立場が弱く、会社側からの報復的扱い、転職の苦難や失敗、これらを心配して、「合意」を受け入れてしまいます。この「合意」の実態は黙従(泣き寝入り)です。つまり、実質的には一般労働者に拒否する権利はないも同然です。
【3.情報の非対称性】
一般的に、求職者は入社前に天引き内容を知ることができません。求職者が不当な天引きを行う会社へ入社してしまうことを回避するにはまず会社がどのような天引きを行うのか確認しなければなりません。しかし、一般的に、会社は、求人票で天引き内容を記載しておらず、また、天引き内容の記載がある労使協定と就業規則を公開していません。
求職者は、たいてい入社手続き日に、雇用契約書や労働条件通知書を渡されて、天引き内容を知ることになります。
この現状は求職者が不当な天引きに泣き寝入りするように仕組まれているようなものです。天引き内容をしるのが入社手続き日では、求職者は、少額の天引きを理由に、入社を辞退すること非常に困難です。(求職活動がやり直しになってしまい、その大変さを思うので。)
【4.抑止力の弱い罰則】
不当な天引きによって、労働基準法第24条の給料全額払いの原則に違反した場合、30万円以下の罰金にしかなりません。こんな低額では、悪徳な経営者に対しては、抑止力が弱すぎます。
労働基準法第24条の改正案
労働基準法第24条のただし書のために、不当な天引きがまかり通っています。不当な天引きを終わらせるためには、労働基準法第24条を改正しなければなりません。そこで、以下に、労働基準法第24条の問題部分を提示し、次いで、その改正案を提案します。(問題部分を赤色で表示し、変更部分を緑色で表示しています。)
【現条文の問題部分】
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
【改正案】
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払うことができる。
2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
3 賃金の一部を控除して支払うことに関しては、特別の法令に従うものとする。